土屋鞄製造所 × ミナ ペルホネン
トークイベント「アトリエシリーズのうらばなし」を開催しました
空想する喜びや自由な創造力を大切にしてほしい──。そんな思いを込めて、「ミナ ペルホネン」とともに手掛ける「アトリエ」シリーズのランドセル。3年目のコラボレーションを迎え、ミナ ペルホネンの創業者でデザイナーの皆川明さんをお招きし、特別なトークイベントを開催しました。会場には、約20組の親子をご招待。トーク内容とともにイベントの様子をお届けします。
※記事内の写真には過去モデルも含まれます。
ゲスト
皆川明さん
1995年に「minä perhonen」 の前身である「minä」を設立。ハンドドローイングを主とする手作業の図案によるテキスタイルデザインを中心に、衣服をはじめ、家具や器、店舗や宿の空間ディレクションなど、日常に寄り添うデザイン活動を行っている。デンマークのKvadrat、スウェーデンのKLIPPANなどのテキスタイルブランド、新聞・雑誌の挿画なども手掛ける。
ナビゲーター
小林明子
土屋鞄グループが運営するウェブメディアOTEMOTO[オ・テモト]の創刊編集長。 新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeed Japan編集長に就任。社会課題とビジネスの接点に関心を持ち、2022年4月にハリズリー入社。子育てや教育などを主に取材。
こどもたちの未来につづく
想像と創造
小林:本日のトークテーマは「こどもたちの未来につづく想像と創造」ということで、皆川さんのこども時代のことや、デザインの哲学などをじっくりと伺いたいと思います。
これまで3回、「アトリエ」シリーズのデザインを手掛けてくださいましたが、リアルな世界ではなく、想像したものを描かれているんですよね。こどものころから絵やデザインに関心があったのでしょうか。
皆川:“デザイン”という意識はないものの、いつも何か空想の生きものばかりをつくっていて楽しかった記憶があります。当時の絵を見返してみると、猫のような動物だけど足が10本あるとか、ウサギのように見えて尻尾はリスとか。今でも知らず知らずのうちに足をいっぱい描いていることがあるので、そのまま今になったような感じですね。
保育園を抜け出して、姉のいる小学校の校庭に遊びに行っちゃうなど問題が多いこどもだったんですが、ものをつくったり、泥団子をつくったり、そういう世界の中にいるのが好きでした。
小林:なるほど、空想の世界をアウトプットしてるのは当時からなんですね。
「アトリエ」シリーズに込めた思い
小林:「アトリエ」シリーズの絵柄の中には、四つ葉のクローバーが隠れているなど、遊び心が表現されていると伺いました。ランドセルのデザインの工夫などありましたら、教えてください。
皆川:まず、6年間使うものということで、全体をぱっと見たときのファーストインプレッションと、6年間見ている間に後から気づくことの2つを意識しました。
例えば、コラボレーション1年目に描いた、馬や犬に見える混ざりあったような動物(画像左)や、2年目の群れの中で1羽だけ反対に飛んでいる鳥(画像右)など。新しい見え方に気がついたときに、「何に見えるかは自分で決めていいんだ」と思ってほしいんです。というのも、小学校生活ではいろいろなことを教わって、情報や知識がインプットされていきます。でも、どこかには「自分で決めていい」っていう余白がほしいんですよね。教わったことを信じるのと疑うのと両方が大事で、それを絵を通して伝えられたらなと。
小林:毎日開けるからこそ、いつか気づいて、それもまた出会いになりそうですね。
記憶とつながる「絵」
小林:先ほどランドセルのデザインの工夫について伺いましたが、大人向けのプロダクトのデザインとは違いがあるのでしょうか。
皆川:大人向けのデザインは、見る人に蓄積されてきた経験や時間が多いからこそ、記憶とのつながりを大切にしています。「美しい、きれい」という美意識の判断から離れて、「私もこの風景をどこかで見た気がする」と。あえて詳しい絵の説明なしに店頭に並べるのも、自由に自分の中の記憶とつなげてほしいからです。
ランドセルも洋服も、長く使ううちにいろんなことに気づいてもらえたらいいですね。
小林:絵というと平面的なイメージをしていましたが、記憶とつながっていく何次元かも分からないような不思議な空間に感じました。皆川さんはブランドを立ち上げたときに「せめて100年続くブランド」という思いだったそうですが、これからずっと先に、皆川さんの知らないところでも気づきが生まれていきそうですね。
こどもの想像力の伸ばし方
小林:まだこれから情報がインプットされていくこどもは、本当に想像力が豊かですよね。私自身、子育てをする中で「うちの子天才!」と驚くことがあります。親バカながらこの力をずっと伸ばしてあげたいのですが、どうしていったらよいのでしょうか。
皆川:そうですね、空想は何よりもその人の自由な状態なので、まずは誰も否定しないことが大切です。次に、それはここからどうなるの?その次は誰が来るの?と関心を持って、スイッチを入れるんです。
例えば、親子で交互に絵を書き足してみてください。こどもが描いた絵に、自分が描き足して、またこどもが描いて……と、延々と繰り返して、相手の空間に乗っかるんです。そこでは、自分の思い通りにはなりません。でも、相手のやりたいことを見られるし、次の順番で自分のやりたいことも記せる。そういうやりとりは、現実の社会の中で、常にあることですよね。その自由と不自由の混ざり合いが、また空想を刺激していくんです。
小林:面白そうですね。こどもの自由な発想が、大人の自分が忘れていたことも刺激してくれそう。
皆川:そうなんです。そこには優劣も親子もなくて、ただ1対1でお互いの空想を足していくだけ。日頃の親子関係とは違う状態ができるのではないでしょうか。
「すきないろは、なんですか」
小林:ここからは、会場のみなさんのご質問にお答えいただきたいと思います。早速お子さんの手が挙がりましたね、聞いてみましょう。
来場者:好きな色は何ですか。
皆川:1つを選ぶことはできなくて、全部の色が好きなんです。色が目に入ってくる時、一色ではなくて、大体お隣に違う色がいるでしょう。だからその組み合わせで仲がよさそうだなとか、ちょっと仲が悪そうだなというふうに見ています。
よく使う色としては青色です。なぜかはまだ分からないけれど、黄色が隣にいると緑色になったり、赤がいると紫色になったりと、組み合わさる色によって変化しやすいからかもしれません。
あなたは何色が好きですか。
来場者:全部ー!
皆川:一緒だったね。色鉛筆の中にある色だけでなくて、混ぜながらいろんな色を楽しんでね。質問ありがとう。
小林:ほかに質問がある方はいらっしゃいますか。
来場者:息子が、2025年ご入学用モデルの「daily cosmo」を選びました。すごく惹かれたようなのですが、どんなテーマが込められているのでしょうか。
皆川:あれはこどもに向けた「森羅万象」をテーマにした絵なんです。自然や生きもの、空間などがミックスされていて、子どもたちが自由に想像できるよう具体的ではない図案を描きました。
すべて同じ形のマスだけど、収まっているのはさまざまです。会社という決まった組織の中にもいろんな人がいたり、家族だけど違う人間性を持っていたり、地球上の森羅万象もそうですよね。日常のなかにある宇宙を表現しました。
見て触って、
たくさん体験して
小林:では最後に、未来に生きるこどもたちにメッセージをお願いできますか。
皆川:世の中がどんどん便利になり、たくさんの情報が速く、広く得られるようになっていきました。ある意味世界が小さく感じることもあると思います。だからこそ、自分の歩く速さ、見える範囲でいろんなことを感じる機会を増やしてみてください。スマホなどで「知っている」状態に留まらず、体験を大事にしてほしいんです。見ること触ることで、自分の身体というのはここにあるんだ、と感じられると思いますよ。
小林:普段つい外でスマホを見てしまい、こどもに「お母さん、あそこに花が咲いてるよ」と言われないと気づけないことがあるんです。大人にも響きました……。
まだまだお伺いしたいことはあるのですが、本日は以上となります。貴重なお話を本当にありがとうございました。
終了後は、並べられた歴代のランドセルや原画の周りで、皆川さんとお客さまそれぞれの気づきや思いをじっくり交換される姿も。「アトリエ」シリーズを背負って来てくれたお子さまは、名前が花にゆかりがあることから「お花が描いてあるからこのランドセルが好き」と教えてくれました。
「これから届くランドセルが、もっと楽しみになりました」とのお声もいただき、あたたかく濃密な時間を過ごすことができたと感じています。ゲストの皆川さんはじめ、来場・配信視聴くださったみなさま、ありがとうございました。